亜矢 ライブレポート 2002年2月22日 渋谷DeSeO

(※2002年、gooの特設サイトに掲載されていた記事です)

<2月22日、渋谷DeSeOで行われたライブの模様をレポート!>

亜矢の今年1発目のステージは、彼女が昨年から一番出演回数が多い渋谷DeSeOにおけるイヴェントのトリ。幾分他のバンドとは違う存在(というか、どこに出ても彼女は異色)の彼女ではあるが、暗転してお決まりのSEが流れると、会場の空気は一気に亜矢の世界になった。 

亜矢 2002年2月22日 渋谷DeSeO 01
名曲『選択の朝』のシングル・カットと1stアルバム『戦場の華』がいよいよ発売されるとあって、プレイする曲への期待感がこのSE中に高まってくる。おそらく昨年のデビュー時から応援している目ざとい〈亜矢コア・ファン〉はもっと気持ちが高ぶっただろう。 



真っ白のスクリーンがゆっくりと上がると、そこには静かにたたずむ亜矢がいた。そして、ステージの始まりを告げる鐘が鳴る。オープニングに相応しいR&Rチューン『KING OF PAIN』のイントロのハーモニクスの音だ。〈静かなイントロ、激しい展開〉は亜矢の十八番と言えるとびっきりクールなナンバーで、これはアルバムではUSの強力なメンツとプレイしてレコーディングされたというから、今からワクワクする。

亜矢 2002年2月22日 渋谷DeSeO 02
歌いだした彼女の表情は、多少こわばって見えた。今年最初という緊張からか、バンドもややプレイが硬い印象だ。とはいえ、相変わらずギターを激しくかき鳴らす亜矢の姿は、女性でギターを持つ人が多い昨今のシーンの中では、やはりピカいちだった。圧倒的にギターがサマになっている!続いては、デビュー曲『HANDS』。亜矢一人のギターリフで始まるこの危険な香りのイントロ、キャッチーなサビ、そしてなんといっても亜矢が一番プレイしているであろうこの曲は、オーディエンスが体を温めるにも最適の曲だ。 

「In your hands all.両手を合わせ、今誓い合う言葉、“ずっと一緒にいようよ”」と叫ばれるサビは、亜矢がもっともっとビッグになっていった時に、きっと彼女と観客を結びつけるアンセムのような響きを持つのだろう。それくらい〈信頼〉や〈絆〉といったものを感じさせる曲だ。そして3曲目には、今まで一度もやったことがないという『あぶな坂』を初披露。 

これは最新マキシ『選択の朝』のカップリングで、中島みゆきのカヴァーだ。中学時代にハマったというこの曲、オリジナルはアコースティック・ギター主体のフォーキーなナンバーだが、やはり亜矢がアレンジすると今どきのヘヴィ・ロックに様変わりだ。ただ、曲自体が放つ独特の空気は変わらず、メロディーの持つ〈普遍的な魅力〉がいかに歌として大切かが再認識できる好例だ。 


亜矢 2002年2月22日 渋谷DeSeO 03
5曲目、ライブ中盤にきて最新シングル『選択の朝』がプレイされた。CDも聴いたことが無い人が、仮に初めて亜矢のライヴを観たとしたら、おそらくこの曲の最重要パート「My Mama,Daddy〜」のフレーズとメロディー、彼女の張り裂けんばかりの絶叫ヴォーカル(同じことは大抵ラストの方でプレイする「性〜さが〜」にも言えるが)にノック・アウトされることだろう。それほど心臓がバクバクするような緊張感とドラマ性を持ったインパクト大の曲だ。この曲の持つ悲しい響き、そしてそれに打ち勝とうとする一人の人間の葛藤が凝縮された、〈心の叫び〉が痛いほど伝わってくる曲だ。いびつなまでに、目を見開いて瞬きせずに歌う亜矢。この人が見つめる先は何なのか、何を思っているのか、そんなことを思わずにはいられない、深い世界がそこに繰り広げられていた。 

間髪入れずに怒涛のハードロック『HONEY BEE』を終えると、一息入れるようにギター1本によるエルヴィズ・プレスリーのカヴァーを1コーラス披露した。彼女の幼い頃の音楽との出会いや、育った田舎町の暖かさ、そして素朴な哀愁感が伝わってきた。「声なき声で歌う、愛するモノ全てに。あたしが望む方へ風は強く吹いてる」と、彼女の歌の中で最も人を勇気づけるであろう『性〜さが〜』、そして、昨夏の2ndシングルで、メロディーのポピュラリティーが全快の傑作『CRAZY MERMAID』で幕を閉じた。 


亜矢 2002年2月22日 渋谷DeSeO 04
途中、ギターのトラブルがあったり、全体的な亜矢とバック・バンドの硬さは残したままではあったが、40分という短い時間の中でさえ繰り広げられる“濃厚な空気”は、やはり彼女の持つオーラ、存在感、世界観が飛びぬけて個性的で、同時に彼女が人一倍孤独感を強く持ってきたからだろう。歌っているときの亜矢は、それがライヴだろうがビデオだろうがその世界に完璧に入ってしまい、受け手に“怖さ”さえ感じさせるところもある。反面、歌ってないときの彼女は、シャイで気さくで、とても丁寧な話し方を話をするチャーミングな人だ。それは今日のステージでいう「昨夜初めて、有線で私の曲が流れているのを聞きました。ラーメン屋さんには、とても似合っていたと思います」と照れながらも、よもやの爆笑を誘ったこの日ラストのMCでも、見事に発揮されていた。 

このギャップがまた彼女の魅力でもあるのだろう。生で歌うことの完成度や、全体的なステージの運び方、そういったことはまだまだ経験不足ともいえる彼女だが、とはいえ、観るたびにステップ・アップし、ライヴというその名のとおり“生空間”で見せる彼女のリアリティは、形だけ熟練したアーティストとは明らかに一線を画したピュアなものだ。これだけでも、とても素敵な存在だ。 

photo:Teppei